新宿
知風

東京の街に出てきました
あいかわらず僕はなんとか大丈夫です

と誰かに歌った人がいました
そしてぼくもまた東京にいます


東京は来るたびに汚くて田舎くさいと思います
人の臭いが強すぎるせいでしょう


新宿歌舞伎町すぐそばネットカフェ深夜二時
北条司の漫画を読みながら

XYZの街と今ぼくのいるココを
漠然と比べてみるのはとても馬鹿らしいことです


引越し先は商店街沿いでした
道が分からなくてうろついていたら

たどり着いたのは鎮火されたばかりの火事現場で
歩道にはイエローテープが張られていて

回り道しようとわき道に入って
五歩進んだらそこがぼくの新しい家でした

斜め前の焼けた写真館 誰か死んだのかな
テレビもないのでわからない


東京の飲み会はとても静かでビールで終わり
博多もんのぼくにはちょっと信じられんとですけど

生まれも育ちも福岡だというと
「そうは見えないね」と言われたとです

どげん意味かは知らんばってんが
こんな小さいとこにも偏見とかあるわけで

そんな彼らの仕事が「知識の正しい伝達」だと
そういうところに軽い可笑しさも感じたのです


どこにいてもぼくが中心であなたたちも中心で
どうしてもずれたいぼくはどこにいよう?


斜め前の焼けた写真館 誰か死んだのかな
ぼくには関係ないのかな

そんなことを思う時
ぼくは誰に伝えよう


両親と年老いた犬
置いてきた付き合って二年半の恋人
実家で待っている愛しい我が娘的フェレット
どうしているのかも知らないかつての友人たち


家具もない部屋の底 つぶった瞼の裏に
ひとつひとつ顔を思い浮かべてみるけど


東京の街に出てきました
あいかわらずぼくは何とか大丈夫です


そう伝えるべき相手は誰でもなくて
ぼくのふるさとはどこにあるのだろう


あまりにも人の多いこの街に来てぼくは
今以上に孤独な今までを知ったようです


自由詩 新宿 Copyright 知風 2007-03-11 03:04:27
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