小さな朝
夕凪ここあ
凪いだ空に
鳥の群れが
海の方角に向かって
泳いでいく、朝
朝ごはんの残りのパン屑を
ほんの少し撒くだけで
海鳥ではない鳥が集まる
手のひらが
くすぐったい
高台の家から望む町
白い展望台
横一列に風車が回る
橙色の屋根の家々
海岸線に小さく船
昨日
泣いていたことも
やさしく
町の一部に溶けていく
ともだちの家のパン屋さんまで
買い物の午後
焼きたての甘い匂い
つい二週間前
大好きな男の子が
船乗りになって
行ってしまった
それからというもの
伏せ目がちなおんなのこ
ねぇ、明日は学校おいでよ
町の真ん中に
忘れられたような
古びた時計台
正午と
おやつの時間
流れる音楽
腰の曲がったおじいちゃんが
二日に一回調律
耳が遠いから
少しずつずれている
何もかもやさしさで出来ている
パパは
町外れのボタン工場で働いている
船乗りだったらかっこいいのに
夕方頃帰ってくると
おみやげに
小さなボタンを
もらってくる
売りものにならないものだから
少しだけいびつ
だけどきれい
もしもパパが船乗りだったら
毎日帰ってこれないから
やっぱり
ボタン工場でよかった
引き出しに
丁寧にしまわれたボタン
明日
わたしの一番の
お気に入りを
ともだちに
あげよう
一緒にパン屑を撒いて
きっと
手のひらが
くすぐったくて
笑える