「 リイ。 」
PULL.
「ひとを殴るって、
どんな感じ。」
リイは変な女。
いつだって変な女。
いつも変なことを訊いてくる。
いつもおれにばかり訊いてくる。
「楽しい。
気持ちいい。
それとも嫌な感じ。
ねえ。
笑ってないで、
リイに教えてよ。」
夕べ、
おれの頬を叩いた時、
リイはどうだった。
楽しかった。
「すごーく、
すっきりした。」
その逆だよ。
すっきりしない。
嫌な感じが残るんだ。
ずっとね。
「じゃあどうして、
いつもケンカばかりしてるの。」
どうしてかな。
リイはどうしてだと思う。
「わかんない。
リイばかだもん。
でも、
みんな言ってるよ。
ここの一番はケイだって。」
そう、
らしいね。
「その言い方、
なんかむかつくー。
後でまた夕べみたいに、
叩いてやるんだから。」
いいよ。
リイになら、
いくらだって、
叩かれて殴られてやるよ。
ほら、
今だっていいよ。
「そのにやにや笑いが、
さらにむかつくー。
もう大好きなんだから、
リイはその笑い方。
ちくしょう!。
ホレタヨワミってやつだよ。
これは。」
惚れてたの。
「ホレてるよ。
ばかケイばか。」
奇遇だね、
おれもだよ。
「ああああ。
また笑ってる。
このこのばかケイ。
ぽこぽこしてやるんだから!。」
痛い。
痛いよリイ。
「ごめん。
ホントに痛い。」
ごめん。
ホントは痛くない。
「ばかばかばかばかばかケイのかば!。」
あのさ、
リイ。
訊いてくれるかな、
いつもみたいに、
どうしたのケイって、
おれにまた訊いてくれるかな。
「どうしたの、
ケイ。
ねえこれで、
いいの…。」
リイ。
おれさ、
もう本気で…。
「もう本気で、
なに。」
もう本気でひとを殴れない。
おれ終わったよ。
終わっちゃったよ。
リイ。
「きて、」
リイは、
抱きしめてくれた。
きつくきつく、
おれを抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。
これからはリイが、
ケイの代わりに殴ってあげる。
ケイのこと本気で、
リイが殴ってあげる。」
手加減してね。
「ばか、
本気だよ。
いつだって、
リイは本気だよ。
ホレタヨワミってやつだよ。」
激しいね。
「激しいよ。」
リイ。
「ケイのばか、
本気で愛してる。」
リイは変な女。
いつだって変な女。
だけどリイと一緒だと、
いつだっておれ、
幸せなんだ。
了。