春の迎え方
松本 卓也

三月の風が二月より冷たい
冬がもう少し生き延びているのかな
昨朝国見峠では雪が降っていたそうだ
できればその景色を見てみたかった

いずれ今年に春が訪れる
冬らしい冬を過ごさなくなって
春を迎える方法を忘れたのに

時だけは容赦なく過ぎ
記憶は確実に薄れ
時折思い出す事もある声に
少しずつノイズが混ざって

ふと気がつけば
違法電波を受信したラジオが
異邦言語を話し始めているように
何を言っているのかさえ分らない

同じように一度放った言葉さえ
冷え込んだ風に流されて
再び戻ってくる頃には
偽りの温もりを纏っていて

あの時何を思っていたか
本当は恨み言だったはずなのに
まるで書き古した人生訓のように
心縛る鎖になっていく

吹く度に変わっていく風
降る度に溶けていく雪
巡る度に流れていく涙
忘れる度に強くなる心

何も捨てずに過ごしていったのなら
何からも捨てられずに生きていたのなら
今より強くなった心があったのかな
今より弱くなった心もあったのかな

黙っていても季節は巡り
立ち止まっても時は流れ
見つめていても君は離れ

また一つの冬が過ぎ
抱えていた想いに別れを告げる
一片の結晶が頬に張り付くけど
拭わなければ春はやって来ないのだ



自由詩 春の迎え方 Copyright 松本 卓也 2007-03-08 22:01:58
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