夏の切符 〜海岸列車〜
Rin K




通り過ぎた列車の
なごりの風が、引き連れる
潮のにおい
線路沿いにこの道をまっすぐ行けば
ほら、海が近づいてくる

そう言ってふたり、短い影を
踏み合いながら走った日
無人改札に
置いてこなかった切符は、今も
褪せることなく財布のポケットで眠っている
思い出というものを、どうしても
目に見えるカタチで残しておきたい僕は
傾いた改札箱に、潔さを放り込んできた



あの日、君はといえば
まるで、ありあまるほどの
花びらでも飛ばすように
指先でもてあそんでしわになった切符を
潮風に流した

カラコロと透き通る音は
誰かが忘れていったラムネのガラス瓶
限りなく高い太陽のカケラを
地上にふりまきながら、君に追われて 
吸い込まれていった
ゆるい下り坂の途中で

ねえ、これ桜の木でしょう

一日のうちで一番濃密な木かげに
君は小さく収まって
サンダルを脱いだ



君がいてくれたから、気がついた
切符の日付には、およそ不似合いな木は
君がいなくても、その場所で僕を
迎えてくれる 咲きかけのつぼみで

通り過ぎた列車の
なごりの風が、引き連れる
遠い警鐘
あのときは聴こえなかった
センチメンタリズム

帰りたかった場所は、透明な扉のむこう
切符をもてあそびながら、膝を
抱える僕に
よく似た人が、映っている
そこに、映っている




自由詩 夏の切符 〜海岸列車〜 Copyright Rin K 2007-03-08 21:38:03縦
notebook Home 戻る