木蓮を見る(キャベツ太郎の話)
ミゼット

キャベツを二つに切ったら
きーーらぁーーいーーーって
女が出てきて叫んだので
キャベツ太郎と名づけました

女だけど太郎にしました
かわいくないので太郎です

公園のジャングルジムは
深夜0時、縦にも横にも伸びます
深夜0時なんて今更珍しくも無いので
会社帰りの人と、ご出勤の人に目撃されて、
でもどっちとも気の迷いで流してしまうので今時話題になりません
時たま油断しているカップルが
「うぎゃあ」だか「うひゃあ」だか叫ぶくらいです

そんな公園の近くに家はあります
階段の明かり取りの小さな窓を開けて
夜中、外を見ます
月の欠け具合を見て、
ときどき何か降りてこないか
光の届かない暗がりに目を凝らします
『星というのは恒星です。
 あれらは全て太陽です。』
表紙の取れた図鑑を音読します
『星の瞬きとは、すなわち地球の空気の流れです。』
毛布に包まって読みます
『宇宙での距離は「光年」つまりそこへ光が到達するまでの時間ではかります。
 ですから何億光年先の星の光が地球に届く頃、その星が消滅していることがあるかもしれません。』
公園には外灯が三本立っていて、変に黄色い、寂しい色をしています
「光らない星はあるのかしら。見えないってことは宇宙では無いってことなのかしら」
答えはありません

雨が好きだといったあの子は
きっとコンビニで働いています
パチンコ屋さんを今月末で辞めるといったあの子は
今、眠れているでしょうか
みんななりたいものになれたらいいね
音にせずに息を吐いてみます
なりたいものは、詩人です
笑うとしたら私が笑うのです

それからキャベツはどうなったかというと、
四分割にしたあと、あら塩を振って
木蓮花見のつまみにおいしく食べました
太郎はその間も叫んでいましたが、
「うわわっ」というジャングルジムに驚いた誰かの声にかき消されて
胃の中へ落ちていきました


自由詩 木蓮を見る(キャベツ太郎の話) Copyright ミゼット 2007-03-08 21:15:53
notebook Home