泥酔した浮浪者
狩心

靴の中は酒まみれで
ガボガボでグチャグチャになっている この朝に
足元がふらついて足がどんどんと沈んでいく この町の地底に

ポケットをまさぐって1つの生命を取り出そうとする
ライターの点火音と共に

人差し指のツメの間にタバコがめり込んでいく
タバコが指の中に完全に埋まると
人差し指は黄色に変色する
指には ニコチン0.4mg という文字が浮かび上がり
その裏側に タール6mg という文字が浮かび上がる
人差し指が白くなり肌ざわりが紙のようになってくる
市販のタバコと見分けがつかないような指になる この町の地底で
ほら、
両手の指10本が完全に市販のタバコになって
私は痛々しい手首の血管からタバコを吸うようになる 傷口に染みるね
ほら、
両腕から血管を伝って脳へと煙が向かってくる この朝に
カラスの鳴き声が聞こえる

タバコが燃え尽きると 指が全て無くなり 何も出来なくなる みじめな手

私はいつの間にか無意識の内に
タバコの自動販売機の前に立ってしまう
この町は戦場
私は1人取り残された兵士
ここが弾丸を装填する場所
そんな事を繰り返している内に
時代から取り残されていく帰還兵の運命
私の体すべてがタバコになり
私の顔が何処にも見当たらない この町の地底で
通りすがりの人と肩がぶつかって
体制が崩れて そのまま 神経細胞がやられ 倒れそうになりながら進む運動が
それはもはや
爆弾を抱えて特攻する自爆兵に共感するタマシイ・・・

おいしいタバコですよ?
誰か私を吸って体内に取り込んでくれ フィルターまで全部
ポイ捨てはイヤよ?
という事になる この町の地底で
地球の自然環境の為に

私の放つ煙が
有毒ガスかどうか試してみてくれ 金はいらねぇ
という事になる この町のどこかで

靴の中は酒まみれで 昨日の記憶もない この朝の光が
ガボガボでグチャグチャになっている 夢遊病のように
足元がふらついて足がどんどんと沈んでいく この町の地底に

死の宣告をされた私が
鏡の中で全力疾走を始める
輝いている俺は

もう死んでしまうからと言って
輝いている俺は

本当に大切なものだけを選び取って
それだけに集中して
もう無駄な時間を過ごさない
ここから

タバコを止める事を決心する

俺の体液でタバコの火を消して
子供達の笑顔で救急車のサイレンの音を掻き消す 俺は
愛する妻の涙で二酸化炭素を酸素に変換する
ここから

俺はタバコを止めて
天使のキスを取り戻したが

妻も子もいない 俺は

凍えるような寒さの中で 脂肪を燃焼
体はスリムになっていく この新しい大地の上で

凍えるような寒さの中で 志望を燃焼
これからのすべての出会いの為に
死亡を燃焼

もう、
自動販売機の前に立ち止まる事はないから
ここで
この町で 俺は

地面に転がっている
空き缶を拾い集める事に決めた
地球の自然環境の為に

死ぬな

誰も死ぬな

輸血が必要な人はいるか?

タバコを止めた今の俺の血液はクリーンだ

金はいらねぇ


その代わり、
糸と針を少しだけ分けてほしい・・・
ボロボロになった服を繕わなきゃいけないし
つまりその、
何かと何かをつなぐには持って来いの道具だから
それに、
針の穴に糸を通す時の快感といったら、替え難いものがあるから・・・

今日もこんなに寒いのに
真剣すぎて、汗が止まらねぇよ

ここは戦場で
俺は浮浪者だから
いつ死ぬか分からない この町のどこかで
浮浪者と浮浪者の銃撃戦が行われている この新しい大地の上で
ポケットをまさぐって1つの生命を取り出そうとする


自由詩 泥酔した浮浪者 Copyright 狩心 2007-03-08 20:58:13
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