「 青い如雨露 」 〜薔薇と少年〜
服部 剛
夕暮れ
いつもの通学路で少年は
独り咲いている
紅い花をみつけた
家に帰り
父と別れた母に話すと
「 毎日水をおやりなさい 」
と言うので、次の日から
少年はいつも青い如雨露を鞄に入れて
学校に通った
日曜日
少年が目を覚ますと
窓の外は雨
寝ぼけまなこをこすって
少年は身を起こす
寝巻きの上にかっぱを着て
青い如雨露を手に取り
傘もささずに雨のなかを走り
紅い花が咲く場所へ
少年が立ち止まると
雨に打たれてうなだれた 紅い花
(茎には無数の棘が濡れていた)
かっぱ姿でしゃがんだ少年
いつものように
青い如雨露で水をやる
後から追いかけてきた
頭のいい兄は
「 雨の日は水をやらないでいいんだよ 」
と首をひねって家に帰った
たまたま通りかかった
野球帽をかぶった友達は
「アホやな、お前・・・」
と呆れた顔で去っていった
青い如雨露が空になり
雨のなか
とぼとぼと姿を消す
少年の背中
花びらの上にすべる
一滴の水を地に落とし
微かに身を躍らせた
紅い花
* この作品は「遠藤周作」加藤宗哉・著
(慶応義塾大学出版会)を参考に書きました。