棚織津女の一夜
なかがわひろか

星の洪水で空が溢れそうな夜
私はまだ穢れのない身体と共に
あなたの衣服を織りながら
あなたに添うことを思います

機小屋の周りには村人が火をたいて
私が逃れられぬよう夜通し見張ります

逃れることなどありませんのに
私はそのように育てられたのですから

あなたは前触れなく突然私の元に現れます
然れど私は驚くことはありません
こうなることは幼き頃よりの決まりですから

私は村の老女に教わった
ありとあらゆる技をあなたに施します

あなたは快楽の中で何度も私を呼ぶのです

一つ快楽を与えれば
一つ災いを
二つ絶頂に誘(いざな)えば
二つ厄を
与えた快楽の数だけ
あなたは取り除いてくれるのです

特に守りたい人がいるわけではありません
年を取り腐臭漂う老人や
家父というだけで威張り散らす男

清い血縁とは何ですか
ただ従うだけに私は生まれてきたのですか

快楽に溺れるあなたには関係のないことでしょう

このような村ならばいっそ滅びてしまえばよろしいのに

私がこのようなことを考えているのも露知らず
あなたは何度も果てるのです
夜が明けるまで
何度でも何度でも

あなたは何もなかったように
また空へと帰って行きます

これでまた一年
この村は厄災から守られるのでしょう

しかし
あなたは本当に私たちを守ってくれるのですか
仮に厄災で誰ぞが死んでも
恨まれるのは私だけです

私の力が足りなかったと
私は縛り罵られ
生涯蔑まれるだけなのです

そして来年になればあなたはまた新しい女を抱きます

あなたは本当に神様なのでしょうか
それとも好色の悪魔でしょうか

迷信が作り出す幻影に
私も村の者たちも
ただ惑わされているだけなのかもしれません

いいえ、本当はなんでもよろしいのです
惑うことで
不安が消えて行くのです
ただそれだけのために
私は自分をあなたに
捧げたのです

溢れた星が降る夜に
私は一人
そう思うのです

(「棚織津女の一夜」)


自由詩 棚織津女の一夜 Copyright なかがわひろか 2007-03-08 00:18:16
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