透明カラスと夕暮れ
松本 涼
久しぶりに良く晴れたその日の夕暮れに
私の体温が奪われていく様子を
歩道橋の上から透明なカラスが見ていた
カラスはその向こう側が
全く透けて見えるほどに透明だったけれど
そのカラダの形にゆらゆらと
風景が揺れて歪んでいたので
そこに居ることはすぐに分かった
足早に太陽が逃げていく方向へと
私は急ぎたかった
奪われた体温を追いかけるためじゃなく
透明なカラスの視界から消えたかったのだ
しかし思うより私の身体は重く
カラスの視界は広かった
その上遠ざかるにつれてカラスは小さくなるどころか
次第に大きくなっているようで
歪む景色がどんどんと広がっていった
やがて私はすっかり歪んでしまった景色の中に居た
透明なカラスが広げて丸めた羽の真ん中に居た
私の体温を抱いたまま歪んだ夕暮れが
羽の向こうでゆらゆらと遠ざかっていった