黄金の海  〜新しい命 〜  
さくらほ

実習中
「妊娠してます」
とは言えず
患者さんを
抱きマットへ移動

母泣かせ
父失望させ
私たちは親になる
春3月の風凍みて

結婚式
暗い顔の両親親戚
クラスメイトの
歌だけが華

父の顔
見たら涙が
止まらなく
人前で号泣
何年ぶりか

二人で見つけた
田舎の新居
アパートの周りは
美しき田園

いってらっしゃいの
言葉の次は
お帰りなさい
あなたを待つ一日
それでも幸せ

日に日にと
大きくなっても
実感できず
自転車で遠く
トイレットペーパー買いに

里帰り
喜ぶ両親に
こんなに
居心地良い実家
初めてだと感じた

真夜中に
ひとつき早く破水する
生まれたいのね
大丈夫
頑張るから生まれておいで

吾子は
かぼそに声上げて
母に抱かれる事なく
すぐ保育器
2166グラム

いいんだよ
小さくたっていいんだよ
あなたに会えてそれだけで
それだけでいい

小さい上に黄疸で
退院遅れる吾子は
親より離れ
必死に生きる

吾子抱いて
アパート戻れば
眼前は
祝福に揺れる黄金の海

幼き父と母
全力で
あなたを守ると誓う
瑞々し
稲穂のように輝き実れ

転勤で
復学できず
先生を
裏切ったようで
心が痛い

振り返れば
いくつもの分岐点があった
いつも道を決めたのは
自分

ふるさとを
さらに遠く離れ
見知らぬ土地
新しいスタートは
やっぱり春


自由詩 黄金の海  〜新しい命 〜   Copyright さくらほ 2007-03-06 18:30:01
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