大地が眠る時刻まで  
水無瀬 咲耶

微笑みや涙を分かちあった人も季節も
今は移ろいゆき 途方に暮れ一人佇む
そんなとき海馬を優しく揺り起こされ
私は 翼ある者に呼び醒まされるだろう
人生の黄昏を ごくゆっくりと咀嚼しながら

  *  *  *

その来たるべき日は
きっと透きとおる秋に違いない
恒久なる青い空 鮮やかな黄橙の葉っぱたち
生命のろうそくは 本来の色に灯り
その揺らぎは 清らかで ただ美しくて・・・
 陽だまりのなか 私は静かに
 うたた寝でも しているのだろう
 甘えん坊の息子は何十年後も きゅっと
 手を握り返すが 眼差しは穏やかだろう
 下のおてんば娘も やはりあどけなく
 私の頬に唇をそっと 寄せることだろう

[[ その時まで 翼ある者よ
   私を 拒み続けて下さい ]]

歓びや感動の羽毛では空へ羽ばたけない
歯ぎしりや哀しみをばねに生きぬくのだ
風を鋭く切る羽根が生成される 魂ノ辺リデ
人は皆 祈りの火花を散らす孤高の溶接工だ
今宵丈夫な翼を造形あーとしにゆくよ
私ノ生命ガ吹キ込マレル時刻 虚空へ飛翔できるだろう
より高みへ友に導かれ 光の痕跡を辿るのだ

  *  *  *

体が眠り 大地へと閉じられ
心は永遠の彼方に実ってゆく
夜ごと夢見るように旅立って


自由詩 大地が眠る時刻まで   Copyright 水無瀬 咲耶 2007-03-05 13:35:12
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