バカバカしく人生を浪費せよ、私よ
佐々宝砂

私は基本的にバカバカしいことをするのが好きだ。この場合、バカバカしいことというのは、やってる本人にだけ意味があって他の人には全く無意味なバカバカしいことを指す。他の人に迷惑なバカバカしいことは避けたい。無意味にバカバカしいのがいいのだ。「おまえほんっとにバカだなあ」と呆れられはしても、「おまえバカでウザイからどっか行け」とは言われない程度のバカバカしさがいいのだ。

具体的には、これは私本人の例ではないが、ひとついい例を紹介しよう。バカの父親たる我がバカ父は、若い頃から登山が趣味だ。南アルプスはだいたい征服したらしい。単独行を好み、人があまりいない山に登る。で、このひとが特に好きなのが分水嶺である。分水嶺は分水界ともいう。山の稜線のあっち側とこっち側で注ぐ海が違う。そんな場所を指す言葉だ。こっちに降る雨は太平洋に流れ着くのに、あっちに降る雨は日本海に流れ込む。ある意味登山のロマンのひとつとも言えるこの神秘的な分水嶺に、我が父親はいちいち立ちションをしてくるのだという(実際には見てないので本当かどうかは知らん)。人がたくさん来る富士山の頂上のトイレでオシッコするのとは話がちがう。かなりの深山だし、人はいないし、ちっとくらいオシッコしてもちょうちょが喜んで飲むだけだろうし(蝶や蛾のたぐいはミネラル補給のために尿や糞を好んで舐める)、害はない。たぶん誰の迷惑にもならない。しかし、バカバカしい。なんのために分水嶺で立ちションするのかと訊ねたら、自分のオシッコが太平洋と日本海とどちらに行くかわからない、あるいは両方にゆくかもしれないのがロマンなんだ、そうだ・・・我が父親ながらほんまにアホや。しかし私はこの手のバカバカしさが大好きだ。
このバカ父は酒に酔ってイエグモを生で食べてしまい、そのありさまを書いたバカ詩はバカ娘の詩誌デビュー作となった。とーちゃんありがとう。

バカ父の娘は当然バカ娘である。どのくらいバカかとゆーと、最近あまり仕事がないので(若い男どもに仕事を譲ったので仕事がなくなった)、ひまなときはとにかく焚き火をしている。焚き火が趣味なのである。燃やすものがなくなると、夜中にこっそりご近所の共同木材捨て場である土手に行って、そーっと木材(木を剪定して出た枝や廃材など)をちょうだいしてきて自分ちの庭で焼く。別に犯罪ではない。どーせ木材捨て場の木材はあとで誰かが(特に誰とは決まってない)その場で焼くのだ。しかし私はあえて自分ちの庭で焼く。なんで木材置き場で焼かないのかとゆーと、木材がありすぎて炎がものすごく大きくなっちゃうからだ。それではひとさまの迷惑になる。迷惑はかけたくない。でも焚き火がしたい。うちには燃すもんがない。というわけで木材をちょうだいする・・・てなことになるのだった。なぜ焚き火をするかって、そりゃ炎がきれいだからだ。他に理由はない。炎をより綺麗に鑑賞するために、わざわざ夜中に焚き火する。はたから見るとアブナイヤツだなあ。でも火のそばには水入りバケツを用意してある。いちおう、そのへんは配慮している。

他に実行しているバカバカしいことは、とにかく寝ること!である。ただ寝るのではなくとにかく夢をみるよう努力して寝るのだ。なんのために? 夢がおもしろいからで、他に理由はない。寝て、焚き火して、ああ忙しい(バカだなあ)。虫が飛び交う季節になると私はもっと忙しい。そのへんにいる虫をいちいち図鑑と首っ引きで同定する。なんでそんなことをするかって・・・わかりまへん。単なる趣味です。意味ないです。そのへんに生えてるどーでもよさげな草も図鑑片手に同定する。梅雨時から初冬にかけてはキノコも同定しなくちゃならないのでたいへんに忙しい。とてもたのしい。でも誰の役にも立たない。バカバカしいったらない。その他になにがあったかな、そうだ、えーと、一時期、1960年代のSFを読みまくってから現代の新聞を読む、というのにはまっていたことがある。昔のSFを熟読してそれに慣れてからだと、現代の新聞がまさに未来の新聞に見えてくるのですなー。もちろん、こんなことしても意味ないです。真似てもいいけど意味ないです。図書館で明治時代の文献(新聞がやっぱりおすすめ)を読みまくってからインターネットをする、と、このギャップも非常にたのしい。たのしいけどあんまり意味ない。意味ないけどたのしいからいいのだ。

まあ、詩を書くのもバカバカしいったらバカバカしい。こんなバカ文を書くのもバカバカしい。バカバカしさばんざい。バカバカしく人生を浪費して、あいつはほんとーーーーーにバカだったねと言われて死にたい。しかしまだまだクモを食い分水嶺で立ちションする父親に比べるとバカ度が低いので、修行せねばと思っている。

・最近やってみようと思う朗読関連のバカの例
1.電話帳を情感たっぷりに朗読
2.新聞を切り裂いてバラバラにして適当に集めてまとめて、朗読
3.自分の詩を逆から朗読
4.面白い響きの科学用語を集めて適当に配列して、朗読


・すでにやってみた朗読関連のバカ
イカロス逆


散文(批評随筆小説等) バカバカしく人生を浪費せよ、私よ Copyright 佐々宝砂 2007-03-05 02:25:54
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