ピアニッシモ
夕凪ここあ

午後の教室
一番後ろの席で
眠りとの間に揺れていると
ずっと遠くの方に喧騒が消えていく
穏やかに舞う埃が
知らない間に袖に張り付いて
一緒になって光合成していた
金曜の午後

ノートの端に短い手紙を書いて
放課後には一学年上の教室で戯れる
そんな夢を見ながら
あれは本当のことだったか、と
春の装いの風に流されていくまま
少し泣いていた目覚め

教科書の無機質な文章
段落読みの午後
ひとつ、ひとつ、分断されて
透明な不協和音になって
誰の中にも居場所を見つけられない
先生、気分が悪いので保健室、に、
物語の切れ端の歯切れが悪い繰り返し

揺れる景色
初めて自分以外の手の温かさを知って
何かぎこちない痛みに翻弄されている
胸のボタンをまだ外せないでいるのは
きっと、まだ寒いから
ということにしておきたい
不安定な午後がまた続く春先

夕暮れていく空
昨日の影を引きずったまま
自転車の車輪の空回る音
そろそろ上着を一枚脱ぐ頃合
あんまり寂しいのは嫌なので
ピアニッシモで口ずさむ帰り道



自由詩 ピアニッシモ Copyright 夕凪ここあ 2007-03-05 00:26:22
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