かどの丸いものとさきの尖ったもの
hon

1. かどの丸いものとさきの尖ったもの

新しくきたひとに かどの丸いものが
ゆうべのうちから あべこべに裏がえった
苦しまぎれの 行為の代償に 足もとから
入りこんだらしくて 熱狂的に泣いていて
さきの尖ったものと あらゆる方位から
顔の左右を見あわせて どうにか順ぐりに
小刻みに震える 尻を 手荒になでまわして
さらされた尻を かどの丸いものが もう一度
むざむざ手ばなすのを さきの尖ったものは
苦みばしった表情で 横目に見やっていて
新しいひとの 涙ぐましい 回復への努力は
決して おろそかにしてよいものではなく
取っ手を握りしめて 皮肉をこめてうなずきあい
かどの丸いものと 可及的すみやかに交替した



2. あなたはここの者ですか

美しいひとはもういない
いびつな風が連れ去ってしまった
床に膨大な記号が敷きつめてあるが
もう誰も深くは解読できない
半分あきらめて
ふと当時の空き家に向かうと
そこに恰幅のいい富裕な紳士が立っている
あなたはここの者ですかと問うと
わたしはここの者だと答えるので
僕はそいつの工場で雇われて
以来ひたすらな十二年間の沈黙を
古い約束に対して貫いたわけだが
ある日かすれた記号が僕を訪ねてきて
――あなたはここの者ですか



3. 彼女の手ちがい

私は手ちがいでここにいるの
彼女がそういった
ここってどこさ、と僕がきくと
そうね、と急に笑った
半月前から通信は途絶えたまま
僕らは目的を失っていて
ソファに横顔を押し当てたまま
自堕落に赤ワインを流しこんでいる
全ては手ちがいなのよ
彼女がまた言う
つまり、何も変わらないわ
大気がひどく濃密なので
泳ぐように玄関まで這っていくと
僕は水瓶に頭からのめりこんだ


自由詩 かどの丸いものとさきの尖ったもの Copyright hon 2007-03-05 00:19:22
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