「 遺影の顔 」 
服部 剛

夕陽をあびる 
丹沢の山々に囲まれた 
静かな街の坂道を 
バスは上る 

時々友の家で 
深夜まで語らう
( 詩ノ心 ) 

午前三時 
友の部屋を出て
秒針の音が聞こえる部屋へ 

友の母が敷いておいてくれた
布団にもぐり 
ねむくなるまで 
詩集をひらく 

(ねむりにおちるそのとき 
(きえていたすとーぶが ぱちん となり 
(めがさめた 

(ぶらさがるひもをひっぱり 
(くらやみに
(まめでんきゅうをともす  

(ふたたびまぶたがおもくなる 
(のに
(なぜかいしきがねむれない 

(まくらべに、けはい。  
(すがたのないひとたっている。 

(かけぶとんは、みのむしのいえ 
(みをちぢめるおくびょうなぼく 


「 なむみょうほうれんげぇきょぅ 
  なむみょうほうれんげぇきょぅ 
  なむみょうほうれんげぇきょう 」   


  * 


ノックの音に、目が覚める。 

窓の外は、うぐいすの唄。 

ドアが開いてあらわれた、
にこやかな友の母。 

皿に乗る、自家製ケーキを 
ぼくに手渡す。

それぞれの恋に破れて 
三十過ぎても独身の 
息子とぼくのささやかな友情に 
うれしそうな母の背中 
部屋を出る 


ケーキにのった
苺をつまんで口に入れると 
何故かこころに浮かぶ 
亡くなった友の妹の笑顔 

部屋に日が射す 
カーテンの隙間の向こうから 
近づいてくる、春の足音。 

(むすうのつぼみをつけた 
(さくらなみきのさかみちを 
(おぼろげないもうとのせなか 
(かすみのむこうへ
(おりてゆく 


  * 


桜の咲く頃は  
友の妹の、三回目の命日。 

秒針の音が、聞こえる。

あとかたなく食べ終えた 
ケーキの皿を、床に置く 

(となりのへやのぶつだんにおかれた
(いちまいのしゃしん

瞳を閉じ 闇に浮かぶ 笑顔  
そっと
両手を合わせる 












自由詩 「 遺影の顔 」  Copyright 服部 剛 2007-03-04 22:41:17
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