天に昇れば
川口 掌



今オバァちゃんが食べ残した
お頭付きの鯛が天に昇っていきます
片身が無いので泳ぐ事も侭ならず
さりとて
昇っていくには
残った片身が重過ぎて
潤んだ瞳を
ますます潤ませ
静かに
静かに昇るのでした
あんまり
ゆっくり上るので
昨日までの記憶が
次から次へと
浮かんでは消え
消えては浮かんで来ます

深い海の底で毎日のように
毟り取り
毟り取られて
それを日々の精進
切磋琢磨と呼びながら
出会う度
笑顔で交わして来た
捨て猫の河上さんや
野良犬の野中さん
との挨拶も
今昇り行く空の上では
通用しないかも知れません

笑顔を見せると
殴られる
なんて事はこちらの世界でもよく有る事です
昇った世界は
天国と呼ばれる所で
呼ばれた者達は
それぞれに幸せに過しているそうです

鯛にはSMの趣味はありません
苛める事も苛められる事も
いじる事もいじられる事も
好きではありません
自殺した人達や自殺に追い込んだ人達と
同じ世界で幸せに
やっていく自信がありません


鯛を
食べていたおばあさんが
鯛の骨を
喉に詰まらせ逝きました
おばあさんとは
食べられていた時の事などいろいろ話が出来そうです
でもそれも
もしかしたら
おばあさんには
嫌味に受け取られそうで
話せそうにはありません

天に上がったら
幸せ演じて
いつ迄も
いつ迄も
何も言わず
ただ
ただ黙っている
しか無さそうです
笑って良い場所かどうかは
上がってみてから
考えるしか無さそうです



自由詩 天に昇れば Copyright 川口 掌 2007-03-04 17:36:20
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