闇を抜けろ
川口 掌

暗闇に
四方を囲まれた
街を
少年は
ひたむきに駆ける
羽ばたきにも似た
その足音が木霊する

闇は
巨大な壁のように
しかし
実態を現さないまま
少年の
行く手に立ち塞がる

その速度を
変えぬまま
壁に向け突き進む
少年の
息が弾む
汗が飛散る

そのまま
闇に吸い込まれ
闇の深淵へと
埋没していく少年
闇に濡れ
呼吸は一層
激しさを増す
感覚を
無くしていく地を蹴り
宛の無い前へ
走り続ける

引き返せば
闇の入口へ
戻れるかも知れない
迷いが
頭をよぎる
沈む
沈む
先程より
速度を増し
少年の
身体に纏わりつく闇

全てをふり払え
何もかも忘れてしまえ
家族の顔も
自分の名前も
生きている事も

消える
消える
心も
体も
そして
ただ走る
何も無い
走る

空が
駆けるその時
壁が消える
闇が消える
今日を超えた明日が
目前に現れる


何も無い
羽ばたきにも似た
靴音だけが
広がる大地を
駆け抜けていく

羽ばたきだけが
木霊する




自由詩 闇を抜けろ Copyright 川口 掌 2007-03-03 01:42:53
notebook Home 戻る