海辺の夜
三条麗菜

あんな色の
月の光に照らされては
わたしたち
色彩を失っていくばかりの
ようですね

あんな色の
夜空に月を浮かべられては
わたしたち
月以外にお友達が
いないみたいですね

あんな色の
海にさざなみを立てられては
わたしたち
甘いささやきさえも
届かない風に変わりそうですね

海辺の夜は
人魚の奏でる笛の音を聴こうと
わたしたちのような二人が
手を取り合って
集まってきます

もう何百年も生きている人魚に
夜明けの来ない魔法を
かけられるために
月の光をたよりに
集まってきます

わたしたちは
この夜になりましょう
色彩もお友達も
ささやき交わす声も
もう何もいらないのです

夜と静寂とが同じ言葉となり
ただぬくもりだけを感じ合う
それだけの存在となりましょう

ぬくもりを生み出す鼓動だけが残り
それは同時に時を刻み続け

わたしたちは
この世で最もうつくしい
装置となるのです

心あるものも
心なきものも
手を出すことができない
一つの装置となるのです

人魚の去る水しぶきが
わたしたちが
最後に聞く音です

月はそこにとどまり
夜明けはもう
二度と来ません


自由詩 海辺の夜 Copyright 三条麗菜 2007-03-02 23:13:27
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