古惚けた朝
仲本いすら
起立、気をつけ、礼を繰り返して
僕らの夢は近づいてゆくのだけど
それだけ涙を流す量は
増えてゆくもので
僕はまた今日も机に突っ伏する。
*
「おはよう」の一言が懐かしく響く。
放送事故による君の早めの告白は
いつの日にか当たり前になってしまって
「おはよう」の一言が懐かしく響く
* *
さよならだけは
どうしても言い慣れないけれど、
むしろそれで良いと思うことにしたのは
あの人の涙にまた会えたから
* * *
BGMは、いつも決まって
チャックベリーだった
* * * *
8ミリビデオの中の僕らは
不思議と綺麗に泣いているけれど
すべてを美化してしまわないように
タイトルはまだ付けないようにしている
それを君は
逃げだというが
それもすでに物語の最中であることを、
*
起立、気をつけ、礼が続いてゆき
僕らの夢は触れられるほどになったけれど
それだけ涙を流す量は
増えてしまっていて
* ***
がらんとした教室に
蛍光灯の突き刺す灯りと
草臥れたフロアワックスのかおりが広がっている
そこから産まれたデジャビューに
うなだれながら
黒板の真ん中に
ただ一言だけ、遺してゆく
* ****
さよならは、言わない。
* *****
明日の朝おはようを告げるのは
無機質な目覚まし時計だけ
朝食にはベーコンエッグに
カリカリに焼いたデニッシュ
しかし
明日の朝おはようを告げる相手は
無機質にりいんと鳴るだけで
昨日の余韻を噛みながら
また明日へ進む準備として
リクルートに染まっている。
人間を、
続けている。
*
着席。
始業のベル。