雪桜(ユキザクラ)
なかがわひろか

なあ、雪、降ってるよ

なんぼ今年は暖かい言うても
冬は冬やから
ちゃんとあんたの見たかった
雪、降ってるよ

ベッドに横になる
あなたの瞼は死神の重しで
開かなくなりました
あなたの身体も
病室の白に溶け込んだかのように
動かなくなりました

雪、降ってるよ

私は何度もそう言います
燦燦と照らす春のような陽気の中の
一つ一つの粒子に祈りを込めながら
私は何度もそう伝えます

ほんまやで
今日は不思議な日ィなんや
いい天気やのに
雪、降ってるよ

冷たい雲は暖かい太陽に溶かされて
結晶になる前に
水滴になって蒸発してしまいます
もうきっと今年は雪は降らないでしょう
あなたも本当は
それに気づいているのでしょうね

雪、きれい?

知ってか知らずか
あなたは私に尋ねます
胸苦しい思いに駆られながら
私は平然と答えるのです

雪、きれいに降ってるよ
あんたの一番好きな降り方や
桜みたいに
きれいに舞うとる

あなたは雪桜を想像したのか
それとも私の嘘に我慢ができなくなったのか
微かに笑いました
そしてそのきれいな顔のまま
あなたは終わりました

なあ、雪、降ってるよ

私はまだ言うのです

なあ、雪、きれいやで

涙でくもった私の目には
この部屋の白が
本当に雪の様に見えるのです
その雪の中に
あなたが優しく
眠っているのです

なあ



降ってるよ

明るい太陽が、少し、憎いです

(「雪桜(ユキザクラ)」)


自由詩 雪桜(ユキザクラ) Copyright なかがわひろか 2007-03-02 00:07:17
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