便器
maynard
アルコールの力を借りて
こじ開けようとした世界がある
無理にこじ開けようとしたんだ
その度に嘔吐して
のた打ち回る
もう少し
もう少しだったのに
強力な抑制効果で
頭痛がしてくる
唇が痺れてくる
手先が冷たくなる
震えが体を支配して
でもハッキリと覚えているんだ
BECKのAlready Deadがかかってたっけ
あざ笑うように
俺は死んだようなものだ
って歌うんだ
括約筋が狂って
はばかりをとソファをたって
便器を目の前にすると
この世を象徴している様で
吐き気を覚えるんだ
俺はまた吐く
もう何も出てこないよ
俺からはもう何も出てこないよ
この世の象徴にしがみついて
嘔吐しながら
泣くんだ
嘔吐声で泣き喚くんだ
便所に転がった
骸を優しく抱いてくれるヤツなんて
この独りでは広すぎる部屋では
案の定いなくて
死に掛かるまで目覚めない
そんな眠りに付くんだ
凍え死にそうで目覚めると
風呂場へのアコーディオン式の扉を蹴破って
鏡で自分の顔を確かめるんだ
「時化た顔しやがって」
決まって呟くんだ
服着たままシャワーを浴びて
浴びながら脱ぎ捨てて
また鏡を見るんだ
「俺がそんなにムカつくのか?」
決まって問いかけるんだ
近眼と曇った鏡ででぼやけて見える顔は
不適に笑っているようだ
ふざけやがって
腕時計とリストバンドとヘアゴムだけで
寝床に着く
俺を笑った俺を殺すために
寝床に着く
気が付けばカート・コバーンが叫んでた
寝床で気を失って
笑った俺を殺して
強い日差しで覚醒したんだ
ロフトから転がり落ちて
風呂場で歯ブラシを咥えると
葬ったはずの俺がまだ笑ってたんだ
またぶり返した吐き気と頭痛で
葬ったはずの俺を忘れて
死に物狂いでこの世の象徴にしがみつく
また始まるよ
繰り返すんだ
永遠に廻っているんだ
誰も助けてなんかくれないんだよ
そこに在る物なんて
便器のようなもので
汚物を押し流して
暗い汚い配水管に押し込めて
浄化しようと全力を尽くすんだ
塩素塗れで俺は真っ白
そぐわないなら配水管に押し込めて
塩素塗れで真っ白さ
何色にでも染まる真っ白さ