滑歌
朱雀

高杉晋作が作った都々逸三羽と言う説もある
――三千世界の烏を殺し主と朝寝がしてみたい*1――


寝物語の睦言に

誰がうとたか漫歌そぞろうた


熊野の牛王ごおうを裏返し

誓紙にしるす心底を

たわむれごとと

笑み曲ぐ君様きみさま


くるわの網が絡みつく

大門超えた恋所こいどころ


現事うつつごとと知りながら

八咫やあたの烏に願掛けりゃ

扶桑の枝で かあと鳴き

血反吐を吐いて那落に落ちる

破約の責めを鏡に映す


洒落のわからぬ明鴉あけがらす

慈鳥と呼ぶか

阿呆烏あほうがらすと罵ろか


ほんに苦界は烏兎怱怱うとそうそう

誰か烏の雌雄を知らん




※高杉晋作の都々逸を元に書いた遊女の恋物語。カラスづくし・・・




■遊郭関連の語句解説■

滑歌ぬめりうた】江戸時代、明暦・万治の頃、遊里を中心に流行した小歌。
【熊野の牛王ごおう】烏文字でデザインされた熊野三社が発行する牛王宝印という護符。
その裏は神にかけて誓いをする時に相手と取り交わす誓紙として用いた。
誓約を破ると神の使いであるカラスが一羽*2死に、本人も血を吐き地獄に堕ちると信じられ、江戸時代には遊女と客が取り交わす誓紙として使われていた。
【郭の網】遊郭につとめる遊女が身に受けている束縛のたとえ。
【大門】遊郭の入口にある門。新吉原のものは特に有名。
【恋所】遊里。遊郭。色里。
【苦界】仏語で苦しみの多い世の中。人間界。または遊女の世界。遊女のつらい境遇。


*1 高杉晋作が作った都々逸
*2 三羽と言う説もある



自由詩 滑歌 Copyright 朱雀 2007-02-27 20:02:46
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