AVE MARIA
水在らあらあ





                     ―RIOJAにて



?.

なんだかこれは
フリーメイソンみたいだ
俺達は深い地下にいる
NAVARIDASというリオハの小さな村
ねずみに食われたチーズみたいなもんだって
イゴールが言っていた
村の地下は穴ぼこだらけで
そこにワインが眠っている

軋む はしごで登って
大きな樽の中からワインをすくう
はしごを降りる前に大きな手桶から俺は少し飲んじゃう
みんな大笑いだ

ねえ昼間に行ったCASA LA REINAって村もよかったね
コウノトリ
俺始めて見たよ
本当に教会の上に巣作るんだね
あの12世紀ぐらいから立ってる教会の尖塔に
あんな大きな巣を作って
まああいつらおっきいからね
だってパリから赤ちゃん運んでくるって言うもんね
でも俺大好きだよ
黄色い石造りの教会の上に
コウノトリが仲良く夫婦でいるあの風景
なんだかものすごく幸せな風景だよ
カメラ持って来ればよかったね

石はすごいね 石の文化は
石造りのテーブルに
みんな集まって
パンをちぎって
肉を切り分けて
ワインをついで

なんだかさあ
フリーメイソンみたいだ
みんな いつもよりもよっぽど西洋人に見える
いつもそばにいる 見慣れたおまえでさえ

そんなことを思う俺はやっぱりまだまだ日本人なんだね
あたりまえだね 別に西洋人になりたくもないしね
楽しいよ とても でもなんだか 結局 ここにいるからかな
とても

さみしいね





?.

男たちの奇声 女たちの嬌声
みんな 本当に楽しそうだ

野菜が殆どない 贅沢な晩餐が終わって
男たちはカードを始めている
女たちはおしゃべりをしている
みんな満腹で 血はワインに満たされて
誰もかれも優しい 優しさを持って
はしゃいでいる

俺はテラスに出て
星空の下にずっと広がる葡萄畑を見ながら
石と肉について考えている
そしてパンをちぎるという行為について
ナイフとフォークと箸の違いについて
LA GUARDIAの教会にあった最後の晩餐の油絵
そこには食べ物がしっかり描写されていた
子羊の丸焼きが
テーブルの真ん中にあった 
その下で猫も二匹なんか齧っていた
その猫の人間みたいな目の描写について
そしてもう一つの
聖母マリアの絵
マリアは子羊を抱いている
その子羊にはAとMが重なった記号が刻まれている
周りを跳ね回る子羊たちにもみんな刻まれている
緑の草原の奥にいる子羊は
AVE MARIA って鳴いてまでいる
AVE は言うかもしれないけどねえ
MARIAはねえって、俺達は笑った

そうやって考えていると
おまえがテラスに出てくる
なあ
好きだよ
なあ
AVE MARIAを歌ってくれ
少し酔っ払っているおまえは
高らかに おどけて 歌いだす
踊りつきだ ぶっ壊れたバレリーナみたいだ 
長い 金色の髪を振り乱して
俺はワインを注いで
二人で
飲み干す
そうして体をさすってみる
この体のどこかにも
A とMの烙印がないか
あったらあったでいい
でも
ないね
あるわけないね
なあ
ナイフ持ってきてるから
今夜
傷をつけてくれ

もう
ベッドに行こうよ




?.

ぜんぶ
いっしょだね
笑い声や
暖かい抱擁の中では
ぜんぶ
一緒なんだね
みんな
一緒なんだね

目覚めて
おもいっきり伸びをするおまえの裸の背中に
生まれたての太陽がぶつかって砕ける
その白い背中に見える
A とM が
目をこすっても
まだ見えるから
俺はおまえを
くすぐってやった
後ろから

楽しいね
朝だね
もうここがどこだっていいね
さみしくなんか
ないよね












自由詩 AVE MARIA Copyright 水在らあらあ 2007-02-26 10:01:03
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