代償
千波 一也



 きみの名前をおぼえた日から
 ぼくはふたつを呼んでいる


やさしさは偽らないからね

溢れても
まみれても
ささやかなすべてを
見失わないように


 疑うことは
 まもることから始まってゆく
 
 信じることは
 攻めることから転じた姿


あしたはやがて
きのうに変わると云うよ
いくつのきのうが
安らぐだろう
ここで
いま


みたこともない宝石は
いつまでも輝くのだろうし
きっとすばらしいのだろうけれど
気づかないまま
踏みつけてしまったりは
しないものだろうか


 語り尽くされたものの隙間から
 こぼれるなにかを待ちながら
 ぼくは

 きみの名前を
 ひとつに結んだ

 ふたつの腕で
 愛のさなか
 で


真っ直ぐに
真っ直ぐなものをたよっている

やわらかに
やわらかなものを傷つけている


 触れるということは
 あまりにも非力さを明るくするけれど
 それはかなしみではないね

 敢えて言うなら、そう
 かなしむための






自由詩 代償 Copyright 千波 一也 2007-02-26 09:20:56
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【きみによむ物語】