代償
千波 一也
きみの名前をおぼえた日から
ぼくはふたつを呼んでいる
やさしさは偽らないからね
溢れても
まみれても
ささやかなすべてを
見失わないように
疑うことは
まもることから始まってゆく
信じることは
攻めることから転じた姿
あしたはやがて
きのうに変わると云うよ
いくつのきのうが
安らぐだろう
ここで
いま
みたこともない宝石は
いつまでも輝くのだろうし
きっとすばらしいのだろうけれど
気づかないまま
踏みつけてしまったりは
しないものだろうか
語り尽くされたものの隙間から
こぼれるなにかを待ちながら
ぼくは
きみの名前を
ひとつに結んだ
ふたつの腕で
愛のさなか
で
真っ直ぐに
真っ直ぐなものをたよっている
やわらかに
やわらかなものを傷つけている
触れるということは
あまりにも非力さを明るくするけれど
それはかなしみではないね
敢えて言うなら、そう
かなしむための
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【きみによむ物語】