或る絵描きの悲劇
蔦谷たつや

いつかあなたは僕の絵を
「痩せた狐の落とし子ね」
笑って僕に言いました

弱って僕は、虹のあなたに
「よくも、よくも」と笑ってました

いつかあなたは僕の絵を
「止まった時計のようだわ」と
親身に教えてくれました

悩んで僕は、虹のあなたに
「いま動くよ」と笑ってました

いつかあなたは僕の絵を
「地獄絵図の模写かしら」
出任せばかりに言いました

負けずに僕は、虹のあなたに
「これは君の肖像なんだ」

いつかあなたは僕の絵を
「こんなガラクタ誰が買うのか」
怒鳴って部屋を出て行きました

初めて僕は、虹のあなたに
どういうこともできなかったの


あれからとうとうあなたがもう
二度と僕に何一つ
言わずにあの世に逝ったこと

あれからとうとう僕がもう
筆など持たずに何一つ
言わずに涙に死んだこと







自由詩 或る絵描きの悲劇 Copyright 蔦谷たつや 2007-02-26 02:13:38
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