約 束
塔野夏子

君という雨に打たれて
私のあらゆる界面で
透明な細胞たちが
つぎつぎと覚醒してゆく

 夏の朝
 影に縁取られた街路
 やわらかな緑の丘
 乾いたプラットフォーム
 きらめきに溢れた湖
 古い部屋 忘れられたピアノ
 鋭くカーヴするハイウェイ
 鉄塔に引っかかった月
 甘い雲
 混沌のカフェ
 風の吹き抜ける岬
 黒々と浮かびあがる鉄条網
 黄昏に浸されたホテル
 静かな森
 らくがきだらけの壁
 傷ついたまま廻る観覧車 メリーゴーラウンド
 冬の午後

どんな情景にも
羽撃いてゆく窓がある
橋を渡ってゆく君がいる
変わりつづける眼差しの色が
ゆらめくように炙り出してゆく
不変の輪郭

君という星に打たれて
私のあらゆる界面で
透明な細胞たちが
つぎつぎと覚醒しつづける

また会おう
思いがけない時
思いがけないところで

橋を渡ってゆく君の向こうに
羽撃いてゆく窓があり
それは空の遠くで
一羽の鳥になる





自由詩 約 束 Copyright 塔野夏子 2007-02-25 22:42:25
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