現時点
サナギ
長らくこんなところを歩いていると
色々と妙なことがある
向こうからやってきたそいつは
確かに一人の男に見えた
だが喋ってみると
「あなたたちは、どこから来たのかと私達は疑問に思うかもしれません」
なんて言う
質問なんだか、かもしれませんなのか、そもそも私達って誰と誰だか
さっぱり分からねえ
俺はあっちから来て向こうへ行くんだ、と言うと
「あなたたちがあっちから来たということは、足跡でだいたい推測されると私達は確信しているかもしれません」
だと
お前はどっちへ行くんだと聞くと
「私達はあなたたちと共に歩むことを望まないかもしれません」
だと
要するに別の方向に行くってことだなと言うと
「そうかもしれません、現時点では」
だと
「あなたたちは、一人の人間、一個の人格ではないのに、それを知らない。
あなたたちには、たった一つの選択だけがあり、それが永続すると信じて疑ってもいない。」
違うのか
「違うとも言えるし違わないとも言える。とにかく、自分が一人の人間、一個の人格ではないことを思い、自分たちが今しているたった一つの選択やその永続を疑ってみることは必要であると、私達は現時点ではそれを言うことをよしとする。」
まわりくどいんだが
「時間はたっぷりあるんだぜ。」
そいつはにやりとした。
笑えるんなら、お前でもお前らでも、どっちでもいいぜ
しかし、俺の背負う墓標が重いのは
俺様がたった一人であることを否応なく思い知らせるんだが
「お気の毒さまね。」
そいつ、いや、そいつらは、またにやりとして向こうへ行っちまった
俺が俺たちであり、選択枝がえらくあって、その選択が永続しないとしたって
俺が墓標を背負って眠りながら歩きながら行くことに変わりはないと
推測される
現時点では