不完全ビューティフル
ブルース瀬戸内
秩序にならない秩序が
宇宙にこっそりとバランスを与える。
リンゴにならないリンゴが
今日出荷されたリンゴの真っ赤を演出する。
言葉にならない言葉が
涙腺とやけに密接な位置にある。
ロボットにならないロボットが
人間くさい優しさをなかなか忘れようとしない。
音にならない音が
譜面上の矛盾に潤いと流れを与える。
意味にならない意味が
誰かの人生を必死になって支えている。
誇りにならない誇りが
私の唯一の依りどころだったりする。
詩にならない詩が
大風呂敷を広げて地球儀みたいな振る舞いをする。
私はひどく満足する。
私にならない私は私だ。それこそ私だ。
と宣言してみる。
背中の給油ランプが点滅する。
私はカクカクとした足どりで
給油ステーションに向かう。