alpha108号室〜ねこ〜
コトリ

歩道の片隅で その猫はさびしく倒れていて
彼女の目は逸らさせたつもりだったのだけれど
うまくいかなかった
あまりにかなしいその光景を
彼女は立ち止まり
不自然すぎるほどに見つめていた




−この猫はどうしてしんだの。


−傷ひとつないもの。


−どうしてしんだの。





行き交う人が振り向いて僕らを見ている
好奇の目
そして猫を見ようとはしない
忌むべきもの


動こうとしない彼女を促すために
うそをついた




−猫はしあわせすぎてしんだんだよ。


−宝くじでもあたったんだ。




彼女は、それならよかったと微笑んだ



−でも、わたし知らなかった。


−猫は立体的にしぬのね。




−かなしいね。






ぼくらはさっきより強く手をにぎって
家という名前の
マンションの一室へ
寒空の下を歩きはじめた


自由詩 alpha108号室〜ねこ〜 Copyright コトリ 2007-02-22 19:19:12
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