罪人
なかがわひろか
一人の罪人とすれ違う
一つでいいから
俺の罪を背負ってくれ
心清き青年は
一つくらいならと受け取った
二人目の罪人と出会う
もう一つくらい背負っても大して変わりはないよ
青年は少し迷ったが
確かに一つも二つもそう変わらないと思い
受け取った
青年は二つの罪を背負って道を歩く
向こうから死にかけの老婆がやってくる
金を
食料を
水を
嘆く老婆はどこまでもついてくる
もう死にかけというのに
青年は優しさの一部だと自分を慰めて
石を掴んで老婆を殴り殺した
もうお金もいらない
食料も
水もいらない
青年は三つ目の罪を背負った
重くなった背中に押し潰されそうになりながら
青年は歩く
一人の同じ年頃の青年がやってくる
一つでいいから
僕の罪を背負ってくれないかい?
青年は笑って言う
どこの世界に他人の罪を背負う奴がいるかね
君は少し頭がおかしいかい?
心清き青年は
思う
心清き者は
人々にいいように使われるだけだと
心清き青年は
三つの罪と
己の気づきで
一人の罪人となる
(「罪人」)