また一つ、愛が終わった。 
服部 剛

残業の仕事につかれて夜道を歩いていると、
遠い空の下にいる君の声が聞きたくなり、
携帯電話を持たない僕を、
闇に光る電話ボックスが声も無く呼んでいるようで、
僕は今夜もガラスのドアの中に入る。 
   
もう君は仕事を終えた時間だ・・・  
一呼吸した後に、小銭を入れて、
指で記憶した電話番号を押す。 

あの日からもう二週間以上、君の声を聞いていない
それでも残された希望を手繰り寄せるように、 
寂しがりな心は君の沈黙の答を受け入れようとせず、
過ぎ去ってしまった日々を取り戻そうと、 
抑えられぬ感情に曲がった文字で埋め尽くされた、
届くことの無い手紙を、夜毎の闇に投函している。
    
不器用故に、時折風が運んだ巡り逢いに、
交わし始めた愛情は、
いつも一時の花火で終わっていた。 

そしてお互いの間にある人知れぬ花を、
密かに育んできた君さえも、
今迄の誰かと同じように、
闇の向こうに後ろ姿を消す。 

そして細い風唄の泣き声を漏らす、
哀れな野良犬の僕だけが、
世界に独り、人知れぬ夜に取り残される。  

胸に消えることの無い傷跡のような 
細い月は、今宵西の空に沈もうとしていた。
   
今夜、一つの愛が、終わったのかも知れない。 
また、愛をやりなおさねばなるまい。 

大丈夫、胸に凍みる北風には、昔よりも慣れている。 

たとえ一つの愛が終わっても、
夢を求めて歩む、途上の道は終わらず、 
隣に微笑んでいた君はいないままに、 
僕のまだ知らぬ明日の方角へ道は伸びている。 

冬空には無数の星々。  
それらは、この地上で出逢う
かけがえのない人々の胸に宿り、
暗闇へと消える道の向こうに瞬いている。 

まだ、大丈夫だ。 

そして夢遊病者の野良犬となり、
夜道を歩き続ける僕は
目の前を覆う闇の向こうに幻を見るのだ。

夜空に瞬く星を胸に灯すひとりのひとが、
歩き続ける道の途上で待っているのを。 








未詩・独白 また一つ、愛が終わった。  Copyright 服部 剛 2007-02-22 00:17:43
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