完璧な一つの吐息
カンチェルスキス







 ノートに絵を描くと
 いつも人の顔に見えます
 どんなに線を崩しても
 唇や瞳のある
 表情を持った人の顔に見えます
 その理由がわかったのは
 ずいぶん後のことでした





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 時間は流れています

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 今はノートに絵を描くと
 いつも同じ人の顔に見えます
 どんなに線を重ねても
 心臓を描き忘れても
 浮かんでくる顔があります
 ノートを開く前からそうなのでした





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 ひとつの顔だけが

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 どこから浮かんでくるのでしょう
 その顔は
 あらゆる感情と精神が読み取れる顔
 わたしの心臓のこのあたり
 生きるために必要なこの脳の内部から
 わたしは問うことだけしかできず
 もうノートを開かなくなりました





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 時間というものがありました

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 わたしのそばにいたあなたが
 もういない
 わたしたちは身体を溶け合わせ
 繰り返し
 完璧な一つの吐息を完成させることに熱心でした
 すぐ消えて
 でもずっとそこにあるような
 わたしたち自身の形でした
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  *  *  *  *  *   *  *  *
 そばにいなくても
 どこかにいるわけでもない
 閉じたノートを見つめる
 わたしの中にあなたがいるのだとしたら
 何度でも返事をしてください
 わたしはまた自分の身体を連れ出して
 あのときの完璧な一つの吐息を
 あなたと完成させるでしょう





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 ノート以外のものすべてを黒く塗りつぶしても
 ひとつの顔だけが浮かんできます
 こころが身体を置き去りにしていきます
 自分が身体とともにある人間であることに
 わたしは激しい憎しみを感じるのです





 


自由詩 完璧な一つの吐息 Copyright カンチェルスキス 2004-04-16 07:31:47
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