うすべに椿
石瀬琳々

あなたと私の距離は
うすべに椿
あなたが振り向くと
私が立ち止まる
そんな静かでもどかしい関係
あなたの穏やかな黒い瞳に私が映る
迷子のように泣きそうな顔をして
私は私をじっと見ている
湿った枯葉の匂いが立ち昇り
二人きりの小径は
まだらに陽が射して


 花はこぼれますか
 花は明るく色づいたまま
 あなたの心の水面みなもに落ち
 花はゆれますか
 花は思いをかたどったまま
 あなたの瞳のうちでくるくる回り


静かな波紋が広がって
さざ波が足もとまで寄せて来て
あなたと私の恋は
うすべに椿
つと視線を逸らして歩き出す
あなたの眼差しを背に感じながら
あなたが近づくのを待ちわびながら
そっと屈んで
指先で拾うその花に
あなたの手のひらが
やさしく重なるように



自由詩 うすべに椿 Copyright 石瀬琳々 2007-02-20 14:54:40
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