乾杯!
松本 卓也

そこまで古くもないのに
とても遠い思い出の中でしか
もう息づいて居ないと思っていた

小さな居酒屋の中で
六年ぶりに合わせた顔達は
どれも少しだけ年老いていて
それでも変わらない声をして

調子に乗ってみたり
笑って諌めてみたり
わざとらしくのってみせたり
笑いながら怒っていたり

一瓶の焼酎を空かす間に
どれだけの淀みを吐き出せたか
一箱の煙草を吸い尽くす間に
どれくらいの時を重ねられたか

明日になれば
あの頃とは違う日常

夕方のバイトに間に合いさえすれば
後期の単位を落とさなければ
デートの待ち合わせに遅れなければ
今日中に起きれさえすれば

六年の歳月で背負った重み
笑い合えた時よりも長い月日
それでもあの頃と同じ感覚で
あの頃と少し違う人生を語る

こんなにも当たり前だった夜が
いつの間に当たり前じゃなくなったのかな
そう思うと少しだけ寂しいけど
今夜ほど愚痴の似合わない日は無い

今度は誰が人生の墓場に追いやられるか
幸せそうに笑うあいつらの顔を見ながら
少なくとも俺じゃないだろうからって
負けないように笑って見せた

あの頃より細くなった糸
あの頃より強くなった糸
手繰っていけばきっと会える

それが俺達だって
分かり合えた夜に
もう一度乾杯しようか


自由詩 乾杯! Copyright 松本 卓也 2007-02-19 21:56:54
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