野をゆく日
木立 悟
何も見ない目で笑うたび
雨から低い視界をもらう
ゆるく傾いだむらさきの道
静かに水に追われている道
緑の借りものの背と指が
午後の風を結んでゆく
金と灰と空と火が
離れることのないように
しずくの去った道の跡
呼ぶもののない呼び声の
ひとつの行方と重なるなかに
生きもののかすかな息つぎがある
離れて熱く
触れて冷える陽のなごりのうたに
緑はひとり根づいては
境をまるく抱いてゆく
川がゆうるりと曲がるちからを
見つめつづける永い血があり
すべての色に染まるしるし
定まりのない水辺に置かれる
晴れた午後をわたる羽音
枝からの雨は降りやまず
もどることのないかたちと色に
うすくひらいたまぶたを濡らす