あのひと
草野春心



  あのひとは僕の日々だった



  飲みかけの牛乳パックなんか見てると
  なぜか思い出してしまう
  あのひとと話した 他愛のない未来



  使い慣れたグラスにミルクを注ぎ 口づける
  甘さが 懐かしい痛みに変わり
  ようやく僕は気づく
  あのときの未来に 誰も立っていない事に



  蜜柑の味とか形とか
  雨あがりの匂い
  どこへ行ってもついてくる ひとりぼっちの音
  ……なぜだろう いつでも
  あのひとを感じさせるものは
  あのひとのものじゃない
 


  あのひとは
  あのひとの日々を生きていた



自由詩 あのひと Copyright 草野春心 2007-02-19 10:25:54
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