いつかの梨
ゆうさく
僕が少し思春期に染まり始めた
中2の夏
おじいちゃんの家から
自分の家に帰る日
おじいちゃんの声がして
2階から降りてくる
階段の天井には
手を伸ばせば届きそうだ
のしのしと足音を立てながら
2階から降りてくる
「なし食わんか?」
しわしわの手で
つまようじが刺さった梨を
そっと差し出す
僕は一言
「いらない」
おじいちゃんの寂しさ
螺旋状に連なって
夕日の光と絡まりながら
僕全体を包み込む
帰り際
僕が食べなかった、
干からびて少し色がついた梨は
僕をじっとにらみつけている
僕は目をそらし
いつものように
お小遣いをもらい
おじいちゃん、また来るからと
作り笑顔を見せて
おじいちゃんに別れを告げる
(ごめんなさい)
帰ってから
もらったお小遣いで
ゲームソフトを買った
そんな遠い記憶を
ふと思い出した高3の夏
今頃になって
恋しくなった梨
みずみずしい梨を
つまようじに
刺して食べてみる。
色づいていない梨は
とてもおいしかった
あのときおじいちゃんは
一つの色づきすぎた梨を
寂しげに眺めていたのだろう
(ごめんなさいごめんなさい)
「ごめんなさい」のリフレイン
いつか天国の
あなたに届くまで