甥がもたらした冬の怖い話
時雨

それは、甥っ子が遊びに来ていたときでした。



暖かい冬の日差しの中で、まったりと俺は雑誌を読み、
甥っ子は持ってきたおもちゃをカタカタと動かす中、
優しく降り注いでいた日光を薄い雲が遮った瞬間、
まだ小さい甥っ子はすくりと立ち上がり、そのまま外へ飛び出していきました。

何がなんだかわからない僕を残して。


恐ろしい姉の大事な子、何か有れば僕の命も危ないと、
大慌てで追いかけた僕の心配を余所に、
道路に飛び出すこともなく、玄関の外側のいた甥っ子は、
それはもうキラキラとした目で空を見つめているのでした。

やはり僕は何がなんだかわからないまま。



少しして、薄い雲が通過して、また晴れ始めると、
最近よくしゃべるようになった甥っ子は「あーぁ」と残念そうに呟くと、
ゆっくりと家の中へ戻りました。



「ゆき、ふんないねー。」
その一言で僕はやっと理解出来た。


『暖冬』による異常気象はこの小さな子にも十分影響が有るようで、
両親ともに忙しい彼にとって『雪』は冬の最大イベントで、
関東に住む僕たちの地域には、今年の初雪はまだです。

去年着ていた黄色のジャンパーもう小さくて、
今年買った青色のジャンパーの活躍はまだないそうで、
つまらなさそうに口をとがらすこの甥っ子の心はきっと雪のように白い。




忘れてしまっていたけれど、
目が覚めたときのあのキンと冷たい空気、
窓を開けたときのあの高揚感、
積もった雪に足跡を付けるあの優越感、

全て冬限定のエンターテイメント。


それを知らない子供がこれから先、
南に住む子供だけでなく、
徐々に増えていくのだと思うと、



こんなにも暖かい今年の冬に言い知れぬ寒気を感じました。






自由詩 甥がもたらした冬の怖い話 Copyright 時雨 2007-02-16 11:56:06
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