原宿物語
恋月 ぴの

ねえ覚えている?
初めてあなたと出会ったのは
裏通りにあった小さなヘアサロン
あなたはまだぎこちなくて
遠慮がちな手つきに
硬く閉ざしたこころの奥で
何かが弾ける音がした
(誰かを好きになるって
首筋に強く感じる
男らしさに気後れしそうで
ちょっと意地悪したい気分になった
(思い出は早春の気紛れ
自分のお店を持ちたいって口癖の
跳ねる情熱に組し抱かれて
せわしい息遣いに
こころ奪われ
全身で受けとめてみた
おとことおんなの成り行きを
(認めたくなかったのに
どうしたんだろう
手をつなぎ歩いた欅並木から
同潤会アパートメントは姿を消して
いつもの待ち合わせ場所は
記憶のなかにだけ
(手持ち無沙汰に襟を抑え
今のあなた
優しげな口ぶりとはウラハラに
わたしのこころを
冷酷なまでに突き放し
わたし
怨嗟の黒い器で
風の吹き抜けた叫び声を聴く


自由詩 原宿物語 Copyright 恋月 ぴの 2007-02-13 21:32:49
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