食卓
霜天

なので、
朝食にはレモンを選びました。
細い腕で積荷を忘れられず撫でる、
あなたにはぴったりだと思うのですが。



 あどけない思い出は、見ない振りで通り過ぎ
 ることを許してくれない。親指と親指を約束
 の代わりに結んで、その隙間からほどけるよ
 うに漏れていくものを忘れたりもしない。ス
 カイ、レイン、食卓に並んだ小さな手。いつ
 も集まるものが全てで。忘れることには慣れ
 ないままで。



並んだ椅子に座る。
向かい合わせには座らない君は、
いつか振り向いて、見逃してきたものを。
その配分と、構成比率とに悩まされて。

食卓の向こうにある窓の外に繋がっていく景色の一つひとつ。
逃げていく線の一つひとつに君と、同じだけの君が乗り込んで。
その一つひとつにレモンを添えていく、毎日の朝食に。
その香りが良いらしい、絞りたての天まで届きそうな。



 ブレーキは届かずにいつも同じ分だけ悩まさ
 れている。忘れていたことを思い出すと、そ
 のお返しに押し寄せる一日が明日の混ざらな
 い部分を隠して。部屋につけた凸凹を隠そう
 ともしないで、段ボール箱の都合のいい角度
 を。折れ曲がる姿を誰かのせいにして。いつ
 も触れない一つひとつ、カーブに沿って消え
 ていく。食卓の向こうで、世界は。



一つひとつ。
あなたという可能性の一つひとつ。
なので朝食には選ばれました。
細い腕に、細い腕に、
染み渡るように。


自由詩 食卓 Copyright 霜天 2007-02-13 01:34:23
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