真夜中の散歩(2003)

たばこをやめたら体重が3キロ増えた
補正したばかりのボトムスが
みるみる合わなくなってしまった
そのことで取り急ぎ困りもしなかったが
そんな理由から冬に始めた散歩は
春を過ぎてもまだ続いていた
やめる理由も取り急ぎ思い浮かばなかった


「バイニョロ〜」
と言って友人が家を後にする夜半過ぎ
テーブルの上の菓子袋やら缶ビィルを片付けて
いま帰って行ったばかりの友人と
全く同じ足取りで爽やかに家を出る
一体、この時間は自分にとって何なのか?
「レジャーだな」
というセリフが頭に浮かんだ


テレビにはお昼の顔が映っていて 外は雨が降っていた
チャンネルを切り替えると惑星の横顔のド・アップ
ニュース・キャスターの声に耳を傾けると
何万年ぶりかに火星が地球に大接近してきているらしかった
降り続いていた雨は 夜になるときれいに上がっていた
いまどこかで降っているその雨も
やがて止んでしまうということの確かさ
その雨には もう二度とめぐり会えないということの確かさ
と悲しさ


いつもと同じように寝静まった団地の中をくぐり抜けて
いつものように縺れた電線の間からのぞく夜空をチラッと見上げ
て 再び首を下げるモーションに入る迄の2、3秒

「あ」

はじめて気がついてしまった
間接照明で明るんだ空に、ぼんやり浮かんでるいつもの明るい星
危うく攣りそうになり下げる首
おれ 毎日火星を見てた


自由詩 真夜中の散歩(2003) Copyright  2007-02-12 18:34:16
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