過保護という真綿
三架月 眞名子

私は二人姉弟の長女で
両親にとって初めての子
だから
傷つかないように
壊れないように
ふかふかのブランケットに包まれて育った


二十一歳になる私は
料理が出来ない
結局
一番の原因は自分自身だと
それはわかっているけれど
一度だけ言い訳をするチャンスを与えてほしい


傷つかないように
細心の注意をもって守られてきた私に
母は包丁を触らせてくれなかった
刃物と言う刃物から遠ざけた

林檎を剥けるようになったのだって
二十歳過ぎてから
それまでは毎回母が剥いていた
ある日林檎を所望すると
なんで林檎くらい剥けないの!
と罵声を受け
包丁を使わせてくれないからじゃないか
という反論するひますら与えてもらえず
私は悔し涙を飲んだ
それから林檎の皮むきの練習を始めた
それでも最初のうちは
いつも傍らに母の姿
チラチラとこちらを窺うまなざし
手元が狂うともれる声なき悲鳴

その時気付いた
気付いてしまった
私はブランケットにくるまれていたのではなく
真綿にくるまれていた事に


そしてその真綿は
今でも私にまとわり付く

揚げ物をしている時は
キッチンに入れてもらえない
もし今私がグラスを割ったなら
その始末をするのは

私は指一本触らせてもらえない
挙句
足が危ないからと
いつもは穿かないスリッパを押し付けられる


二十一歳にもなって・・・!!


そんな私が
いつ料理の練習などできようか?

そんなもの
ただの言い逃れだと
流されるだけのことなのだろうか?


もう二十一歳になった
傷つく覚悟は出来ている
ただでさえ
痛みに鈍い子なんだから
怖がる必要はないんだから


わかってはいる
母は痛みにとても敏感
血には人一倍の恐怖感
過剰反応
そんなだから
娘にもその痛みを与えたくないから
すべての凶器から私を遠ざける



でもねお母さん

あなたのまいた真綿が

私の首をきりきりと締め付けて

私はもう息ができない

血は流れていないけど

苦しくて

涙が滲んで前が見えない

どうか

私を解放してください。。。



自由詩 過保護という真綿 Copyright 三架月 眞名子 2007-02-12 16:13:42
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