東京放浪
うめバア

漫画喫茶で生活している
あの子と僕は

まだ一度も口をきいたことがない

僕のタンスはコインロッカーだ
僕のバスルームは公園の水道だ
毎朝、派遣会社からの呼び出しを待って
暗いうちに出掛けている

あの子のベッドは隅のソファだ
凍えるように寒い夜
まっすぐ眠れなくて全身がガチガチでも
夏の、体臭よりはいいよね。

家族と言う名前の隠れ家を僕たちは知らない
生まれた時から、寒い町しか知らないから
でも、もうべつに
叩けば割れてしまうような殻を作らなくても
僕の心はとっくに鉄条網で囲われてしまっている

それはあの子も同じだと思う

毎日ネットで探しているのは
複雑な心境を抱えたまんまの
単純労働

会ったことのない派遣会社の営業の人の
声が遠くて、優しいから

いつだって即日勤務可
ことわったことはない

真面目に、地道に、東京放浪
目の前を行くのは白いブーツのまぶしい女

それが手の届かない存在なのか
すぐ隣のお姉さんなのか
いまだもって、わからないまま

今年の冬は、いくぶん過ごしやすかった

二人が口を聞くことは
これからも、この先も

明日のことは誰も

愛しているよ


自由詩 東京放浪 Copyright うめバア 2007-02-12 12:14:23
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