語ってしまった後で
及川三貴

物語を聞いてしまうと
彼女は不満げに頬を膨らませた
小さな手がタオルケットの端を
強く握っているのが見えた
硬く白くなって
欲しいものを手に入れられない嫉妬に
震えている

だから
私は続きを話したのだ
それがあんまりにも繊細で
壊れてしまいそうなものだと
思ったから

おまえよく聞きなさい
進めば帰る事が出来ないお話
聞けば引き受けるしかない先
きっと恐がると思って始めはゆっくりと
語るうちに語ることに魅入られてもっと

北の国では
首の無い鳥が沖から飛んでくるというよ
月に閉じ込められた子供がいるよ

彼女の眼の影はかすかな怯えの色
そうして口が滑るままその先を話せば

いつか私がタオルケットの端を
強く握っていることに気付く

もうその頃には私以外の眠った
いきものたちが夢の中


自由詩 語ってしまった後で Copyright 及川三貴 2007-02-10 04:48:49
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