遠吠え
士狼(銀)

悲しくなって遠吠えすると
風に乗って
色んな場所から返事を貰った

風が生まれるならそれは掌からだ
水面に翳すと波紋が囁き 
耳を澄ませばラピスラズリが唄う
冷たい指先で声を拾って
廃墟の壊れた硝子に貼り付ける
風が泳ぐ世界で
遠吠えはどこまで届くのかしら

鴉は「お前は阿呆だな」と云い
猫は「自由が一番さね」と鳴き
犬は「素直に生きなよ」と吠え
鶏は「覚醒させてやる」と叫ぶ

僕は「ありがとう」とだけ返す

風が生まれるならそれは掌からだ
ひとりひとりの声を撫で
掌に唇を寄せて音を浮かべる
ゆったりとした夜に流れた風に
月は何も語らない
ただ
鼓動が聴こえる

小さく細く掠れた遠吠えの後
少しだけ
明日は笑えるような気がした


自由詩 遠吠え Copyright 士狼(銀) 2007-02-09 20:58:33
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
獣化