眠り
はじめ
世界はこんなにも静かだ
人間達や動物達や虫達や植物達は眠っている
僕だけが目を覚ましている
夜は朝を呼ぶことなくじっと眠っている
星々や月は住処に戻っているらしく姿がない
雲は風の寝言を聞いて意識のないままゆっくりと漂っている
眠りのオルゴールが鳴っている
万物は全て眠りに落ちている
地球は自転を止めた
宇宙は拡大するのを止めた
何もない世界は存在することを止めた
時計の針は進むのを止めた
何処かの老人は呼吸をすることを終えた
精子は卵子の中に入っていくことを止めた
僕は大人になることをためらっていた
マージナル・マン
ピーターパン・シンドローム
なぜ僕だけが目を覚ましているのだろう
永遠の眠り
つかの間の眠り
太陽は僕らに背を向けて眠っている
何処かの老夫婦は背を向け合って眠っている
近所の犬は耳を折って眠っている
裸の天使は天国で羽を畳んでベッドでいびきをかきながらぐっすりと眠っている
僕は耳を澄ます
大地と大地が狭苦しさの為に蠢いているのが聞こえる
宇宙と宇宙が擦れ合っているのが聞こえる
自然と自然が燃え上がっているのが聞こえる
無と無が輝き合っているのが聞こえる
僕は目を懲らす
天地がぶつかり合っているのが見える
地球が縦に押し潰されるのが見える
精子と卵子が引き離されるのが見える
老夫婦達が互いにベッドから転げ落ちるのが見える
眠りのオルゴールを感じる
僕は目を閉じる