願い
ツ
正月に家族で詣でた八幡神社で
ぼくは
「女にモテますように」
と神様にお願いした
パチンと2つ手を合わせて
はっきりと言葉を唱えず
頭のなかに、ゆっくりと
顔のぼやけた女と、ぼくが、楽しそうに
穏やかな川辺でフリスビーを投げている映像を
思い浮かべながら
そのイメージを はるか高みにいる
神様に向けて飛ばした
言葉で説明しなくても神様なら
きっとぼくの願いを
まるごとキャッチしてくれる気がした
人垣の背後から5円玉を賽銭箱に投げ入れ
パチンと2つ手を合わせて
他の神社の神様にも
ついでに靖国さまにもお願いした
おばあちゃんみたいに、朝な夕な
神様を拝んでいるわけじゃないけれど
でもこれだけ熱心に
キモチを込めて拝んだのだから 神様も
きっとぼくの願いごとを叶えてくれるだろう
そう思って300円のいかフライを食べながら
家に帰った
とゆうのがおととしの話で
去年の話でもある
いくつもの新しい季節が
チータのスピードで通り過ぎ
そしてついにぼくは女にモテなかった
学園祭の出し物で
ミニ四駆のレース・サーキットを使って
背中に番号を書いた
ゴキブリたちを走らせていたら
ゼミの女子たちに嫌われた
キャバクラに
ハシゴしても、ハシゴしても
ソフトなタッチすらさせて貰えなかった
そして年の暮れには
おばあちゃんが階段から足を滑らせて入院した
おばあちゃんのお見舞いにいくと
おばあちゃんは左の足首にギプスをして
松葉杖をついて
よれよれよろよろ歩いていた
心配してたよりも元気そうなおばあちゃんの顔に
なんだかちょっとだけ気分が明るくなった
正月には外泊の許可を貰って家に帰ってきた
おばあちゃんは初詣には行かなかったけど
仏壇を丁寧に掃除したり、新鮮な花を供えたりしていた
「日本には八百万の神様がいるからね
喪中のときとか、忙しくて初詣に行けないときには
代わりに、花や道端の石ころに拝んでおけばいいのよ」
と冗談をいって笑っていた
ぼくはいつもの神社で
女とフリスビーを投げている映像etcを神様に送ったのち
家に帰ってくると
おばあちゃんはトン汁を用意して
みんなの帰りを待っていた
僕が牛丼屋に入っても
いつもトン汁を頼めないこと
おばあちゃんは知ってたんだろうか
わからないけれど、
口の中いっぱいに
懐かしくてやさしい味がひろがった
そのあとぼくは家を飛び出して
家の前で拾った石ころの神様に
「おばあちゃんの足がはやく治りますように」
と今度はちゃんと言葉にして
何回もお願いした