許すという事
野薔薇

彼らは私を笑いました
彼らは私を馬鹿にしました
彼らは私の人格全てを否定しました
彼らは私の笑顔を奪い去りました

心に傷を負った私は
体に傷を負った彼に
毎日毎日そう言っていた

決して広いとは言えない
木造の小さな小屋
怪我を負う前はカーボーイだった彼の
自慢の品で埋め尽くされている

それらを少し見回した後
自分の体を満足に動かせない彼は
天井からぶら下げた綱を頼りに
よっこいしょと起き上がり
私の方をまっすぐに見た

彼らを憎んでいたいのなら
勝手にしたら良い
けど俺はその話を
毎日毎日
このベットの上で聞かされるのは御免だ
それならお前の助けなしで
一人で生活した方がましだ
そう言って彼はベットにまた横になった

ふと外に目をやると
一匹の熊が庭を横切っていった
またあの熊が来ているよ
そう言うと
そうかと彼は嬉しそうな声で言った
そして
最近見ないので
少し心配だったんだ
と付け加えた

あの熊があなたを傷つけたのに
と言う言葉が喉まで出かけたが
まるで久しぶりに孫に会えて喜ぶ
おじいちゃんの様な優しい目で
窓の方を見る彼を見たら
言えなかった
そうしてもう一度熊に視線を戻した私は
彼の言いたかった事が
少し理解できた気がした

久しぶりに笑顔が私の顔に戻ってきた


自由詩 許すという事 Copyright 野薔薇 2007-02-06 01:07:24
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